日本財団 図書館


 

しても、政府が有効な判断を下して行うことになる。

本来、国民のニーズに応えて行政を行うわけであるが、個々の国民のニーズは必ずしも忠実に集約されたニーズとは限らない。かゆい所に手が届く行政が行われるものではなく、そこに齟齬が生じることは避けられない現実である。また、行政が公平に行おうとすればするほど、行政の行う基準と個々の国民の持っているニーズとの間に乖離が生じることも現実である。場合によっては、個々の国民を不当に侵害する可能性もあり得ることである。また、行政官の方も、とかく自分たちは間違いをおかさないという不可譲性の神話というものにとらわれて、しばしば独善主義的に事を進めていく可能性がある。場合によっては、私益あるいは省益を公益に優先して進めていくこともあり得ることである。そういう形で行政の過誤が発生する可能性がある。これは、政府が小さかろうと大きかろうと常に発生する問題である。この問題を解決するためには、政府と国民との間に中立的な第三者が介在することによって、そこに発生する問題を解決し、そして、行政を血の通ったものにする必要があるわけである。

このような必要に応えるために、スウェーデンでは1809年に憲法上の制度としてオンブズマンを採用した。1919年にはフィンランドで導入された。世界の他の国々では、伝統的な立憲主義の下で国民の権利が守られていると考えられてきたが、やがて、国民の権利、人間の尊厳が必ずしも守られず、時として侵されるという危険性の認識が広まり、スウェーデン、フィンランドで発足したオンブズマンを導入する試みが、デンマークで1953年に、ニュージーランドで1962年に導入されることになり、1967年にイギリス、1973年にはフランスにと、次第に世界中に広まっていくことになった。

わが国では、別の形で問題を解決する方法がとられた。ニュージーランドがオンブズマンを導入した1962年に行政不服審査法が制定され、1966年には行政相談委員法を制定し、行政相談委員制度を発足させる根拠を作ることになった。ごく最近では、行政手続法、情報公開法の新たな制定が行われている。地方公共団体においても、広報・公聴活動の一環である市民相談としてこの問題に対応していくもの、あるいは池田市のように「なんでも相談課」という窓口を設けて市民の要望に応じていくもの、さらには川崎市のようにオンブズマンを導入しているところなど、様々な形態が展開されている。

国の行政相談制度の特徴は、5000人からなる行政相談委員の方々がボランティアで活躍していることである。日本では、この他にも民生委員、人権擁護委員など様々な委員がボランティアで活躍している。日本はボランティア後進国と思っている人もいるが、そうではなく、実はすでに多くのボランティアの方々が活躍している。権限は“あっせん”ということで、そこに弱さが指摘されているが、扱っている件数をみると、昨年度実績で23万2712件、この中の苦情事案は4万4千件で、スウェーデンの4千件の10倍になる。人口比で言えば、ほぼ同じといえる。

 

ここで、私が最近感動した行政相談事案について、紹介させていただきたい。

これは、平成6年9月末に申し出られたもので、「私の息子清作(20歳)は漁船の甲板員で、平成5年12月18日、東樺太沖で作業中海に転落し行方不明となったが、

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION